地震と、演劇と、ピーチャム・カンパニーと

今般の大変な状況のなか、『オペレッタ 黄金の雨』を、安全面を確実に確保した上で幕を明けるということに忙殺されておりましたが、18日に無事幕が開き、昨日までの前半6ステージを中止・中断等もなく無事上演終了いたしまして、本日の休演日へと至りましたので、ここにおいて、この度の震災と現在上演している演劇とについて、ピーチャム・カンパニー プロデューサーである森澤の個人の見解をお伝えさせていただければと思います。
劇団としましての公式見解は劇団ウェブサイト(http://peachum.com)に掲載のとおりです。


まず、この度の東日本大震災におきまして、各地の被災者およびその親族の方々には、心よりお見舞い申し上げます。

また、それぞれに大変な生活を強いられている状況のなかで、ピーチャム・カンパニーの演劇をご選択いただき、昨日までに劇場に足をお運びいただいた方々、明日以後ご来場を予定してくださっている方々には、心より感謝致しております。
劇場内の安全確保・安全確認、ならびに避難マニュアルの作成および関係者によるその周知徹底、さらに避難誘導のシミュレーション、訓練およびお客様への案内を徹底し、安全を第一優先に上演を行っておりますので、明日以後も、ご覧いただける方には、安心して劇場に足をお運びいただければと考えております。
当方では、このような状況のなかで、あらためて、ひとつひとつのステージのかけがえのなさに思いを致しております。
いつ上演ができなくなるかもわからない、どのステージが千秋楽になってしまうかもわからないなかでは、ひとつひとつのステージのどれもが、けっしておろそかにはできないものと痛感し、ひとつひとつのステージと向かい合っておりますので、可能な方は、ぜひとも目撃いただければ幸いです。

さらに、前売チケットのご購入や、当日精算チケットのご予約をいただいていながら、交通機関やその他の事情でやむなく劇場に足をお運びいただけなくなってしまったお客様には、大変申し訳なく、また残念に思っております。
払い戻し等の対応につきましては当方ウェブサイト(http://peachum.com/next/)に既に記載させていただいているとおりですが、今回、公演DVDをいつもより多めにご用意し、払い戻し対応の代替選択肢のひとつ、および、当日精算で観たかったが観られなかった方々への対応(もちろんご覧いただいたお客様にも)としまして、ウェブサイトでのDVD販売を行わせていただく予定ですので、映像という媒体にはなってしまいますが、ぜひご覧いただければ幸いに思います。

さて、今回の震災はご承知の通り、一次被害としての地震による災害のみに留まらず、二次被害としての福島県の原子力発電所に関する災害、さらに三次災害として、電力不足による停電や出控え、その他が影響しての経済的な被害にまで大きく及んできています。
このような状況のなか、当カンパニーも今公演におきまして客足への影響は甚大で、特に3月11日以後の1週間ほどは完全にチケットの伸びがストップしてしまい、小さなカンパニーの経営状況としましては、経済的に大きな損害をまぬがれない状況となりました。
28日の終演を迎えるまでは、この作品を愛し抜き、守り抜き、そこにひとりでも多くのお客様に立ち会っていただけるよう、死力を尽くすつもりです。
しかし、それとあわせまして、ピーチャム・カンパニーは本公演終了以後も継続して演劇活動を行っていきたく考えております。
そのためには、日々変わってゆく目の前の世界に、真摯に向き合いながら、手探りで生き延びるための術をつかみとっていくしかないのだなと、この困難な状況で生き抜いていく決意を新たにいたしております。
ピーチャム・カンパニーは、今後もしぶとく生き抜き、演劇を続けていく所存ですので、何卒引き続きご支援いただければ大変嬉しく存じます。

他の業種の方々も皆そうだと思いますが、演劇におきましても、客足の停滞による経済的な影響に限らず、この時期に上演を行っていたカンパニーとして、様々な影響がございました。
多くの人間が集って創作する演劇の特性上、交通の乱れによる、稽古や仕込み、リハーサル等の集まりへの影響も大きくございました。
また、他にも、ガソリン不足による道具等の運搬への支障、米等の不足による劇場炊き出しへの支障、そしてなによりも、関係者の肉体的・精神的な疲弊など、もろもろ影響がございました。
これから上演を行う団体も、公共の稽古用施設の貸し出し中止による稽古への支障等、さまざま困難な状況にいらっしゃることと思います。
それぞれの方、それぞれの団体が、この難しい時期をこらえて、生き延びていってくれることを、このことの影響で演劇をやめるようなことになってしまう事態を回避していってくれることを、心より願っております。

また、今回の震災で、芸術が、そして演劇が、現実に対して、どのようにありうるのか、なにができるのか、という根本的な問いが、まさに目の前に生々しく立ち上がってきました。
これについては、それぞれのアーティストがそれぞれなりに、ポジティブな答えもネガティブな疑念もさまざま、見解を表明しておられます。
もちろん、われわれもその答えを考え続けています。
そして、なにより今回の上演が、コンスタティブにもパフォーマティブにも、その問いに対するひとつの回答となるのだろう(ならざるをえないのだろう)と思いますが、果たしてその答えが正しいのか、それはいまだ自分でもわからないでいます。
正しいこと、倫理的に正しい判断というものの根拠が与えられぬままに、しかし、その都度、判断を行っていかざるをえないのが人間なのだとしたら、このような問いにその都度その都度答えを探していくことこそが、われわれが生きていくことの真実なのかもしれません。
ともかくも、無根拠な世界と真摯に向き合った上で、その都度判断を行いながら、その判断を信じて、行動すること。
根拠をもちえない判断を、それでも、信じること。
必ず、しぶとく、生き延びていこうと、決意しています。

また、今回の震災で東京においては、本当に美しい団結の諸相が、そこかしこに見られました。
その光景は、アルベール・カミュの長編小説『ペスト』を思い起こすような、どこまでも不条理な世界に対して、人間が立ち向かっていくにあたっての、ひとつの可能性を見せられるようですらありました。
しかし、その団結が裏面として、かつて戦中や、昭和の終わり、さらにはオウム事件の際に見られたような、一種の自粛ムードを呼んでしまったことも事実です。
特に演劇の界隈では、この状況下で上演を行うべきか否かという問いに対するそれぞれのカンパニーの決断に対して、強圧的に自粛を強いるような発言等が一部で散見されました。
団結が達成された集団のなかでは、往々にして、異なる意見の者、その団結の美談の枠組みから外れてしまう人間や行為にたいして、排除の論理がすぐさま働きはじめてしまいます。
団結は、すぐさま、排除を呼び込んでしまう。
このアポリアをいかに突破できるのか。
われわれに生々しく突きつけられた問いは、本当に困難な問いだと思います。
そして、このアポリアから目をそらさず、真摯に向き合っていくことこそが、表現者に求められる倫理なのだろうと思っています。

以上、ピーチャム・カンパニー、プロデューサー、森澤友一朗は、自身の責任において、お客様の安全を第一優先に置いた上で『オペレッタ 黄金の雨』の上演を行っていくこととともに、以後、今回突きつけられた問いに真摯に向き合いながら、演劇活動を継続していくことを、ここにお約束いたします。


2011年3月22日
ピーチャム・カンパニー プロデューサー 森澤友一朗

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